俎板の上の甘藍を小気味よく刻んだ後、鍋に投入し豆腐をどのような大きさで切り分けようかと思案していると、妻の咎める声が聞こえてきました。最初は子どもに話しかけているのかと思ったのですが、視線を妻にうつすとどうやら私に向けて何かを言いたげな、それでいて怒りを滲ませた表情を作っていることに気づきました。私が慌てて聞き直すと、「呼ばないでよ!」と一言怒りの咆哮を私に放ったのでした。
最近の夕食事情
夕食は夫婦どちらでも作れるのですが、ここ数日は妻が作りたいものが多かったので、妻が夕食を作り、その間私が子どもの面倒を見る日が続きました。
そろそろ「作りたいな」なんて思っていた頃、妻から「トマトと鶏肉を使った料理を食べたい」とのリクエストがあり、その日は私が夕食を作ることになったのです。
仕込みは昼から
煮込み料理はじっくりと煮込むと美味しいので、息子がお昼寝をしている間に仕込みを終え、煮込み続けておりました。途中で味見をし、美味しい料理になりそうな予感にほっと一安心。
今日も妻のとびきりの笑顔と「美味しい」という声が聞けると思うと心が躍るのでした。あとは夕食直前に仕上げと味噌汁を作るだけ。
事件は仕上げの段階で
そうして、夕食の時間間際になり、私はキッチンで気持ちよく、それでいて手早く残りの夕食の準備を進めておりました。その手際には全くの落ち度はなかったはずでした。
しかし、途中で妻の声が何度か耳に入り、妻の方に振り向くと、冒頭でお話した言葉が私めがけて飛んできたのでありました。
原因は…
「呼ばないでよ!」という言葉に対し、初めは返す言葉がありませんでした。私がきょとんとしていると妻は訝しげな表情で「わざとやってるんじゃないの?」と問いかけてくるのでした。
その問いに対して何を回答すればよいかわからず戸惑っていると、妻は険のある表情を少し崩し「歌って呼んでいるわけではなかったの?」と再度問いかけてきました。
歌っている?あ…歌っていた!!
鼻歌!?
私は夕食の準備の最中に鼻歌でクイーンの「ドント・ストップ・ミー・ナウ」を歌っていたことに気づきました。それもまったくの無意識のうちに。
しかも鼻歌のレベルを超えた情感を込めて曲の入りの部分を歌っていたのです。
私は息子と遊ぶ時、よく歌を歌ってあげておりました。そのせいかはわかりませんが、息子は「遊んでもらえる!?」と思ったのか、私の鼻歌を聴き私のいる方向に向かって物凄い力とスピードで突き進んでいたようなのです(ハイハイで)。
私が料理をするときに息子の相手をしてくれていた妻は、恍惚の表情で制止を振り切ろうとする息子をなんとか食い止めてくれていたようなのですが、途中で「(旦那が)この様子を見て面白がっているに違いない!」と思い至り、怒りの咆哮を放ったというのが事の経緯だったようです。
謝罪
「大変申し訳ございません。私は自分で鼻歌を歌っていることにすら気づいておりませんでした…。」そう涙ながらに謝罪すると、妻も狼狽えた様子でわざとではないならこちらも一方的に怒ってしまって申し訳なかったと、謝辞がございました。
そして本当に私の鼻歌に対して反応しているのか検証してみると、やはり歌に反応して私の元にハイハイで寄ってくるのでした。
ドント・ストップ・ミー・ナウ…僕を止めないで…まさしく今の君の歌だな…
Queen - Don't Stop Me Now (Official Video)
夕食
そんな紆余曲折を経て完成した料理がこちらになります。気持ちよく作ったから味は良くできたんです。気持ちよく作ったから…。
鶏肉をトマトソースに完全に浸さず、仕上げに皮目を焼くことで「チキンステーキ感」を出しました。
自分でも納得の「会心の出来」でしたので、機嫌を直してくださいました。良かった。
おわりに
まったく人騒がせな鼻歌でございましたね。以後、私は鼻歌を歌っていいかを確認してから料理に取り掛かるようになりました。気づけば歌っているという無意識への対策も込めて。
皆様も無意識の行動で怒られた経験、ございますか?