一人暮らしを8年ほどしていましたが、宅配業者以外の来訪者がまともであった試しがございません。一人暮らし当初は毎度玄関ドアを開けて対応していたのですが、あまりの胡散臭さとほとばしる悪意にうんざりしてしまった記憶があります。
うんざりして以降は、玄関ドアを開けずにモニター付きインターホンのみで対応するようにしていたのですが、「玄関口までお願いします。」の一点張りで応じなかったり、聞こえていないふりをして玄関口まで来させようとしたりする方もしばしばいらっしゃいました。そんな時はインターホンの電源を切って応対しないようにしていました。
本日は、そんな私がなぜかインターホンで対応せず、うっかり玄関ドアを開けて怖い目に遭った時の話です。
来訪者は突然に
社会人何年目かのお正月休み、年始から一人暮らしの部屋で徹底的に怠惰な生活を送っていた時のことでした。
実家から貰ってきたお酒を飲みながらゲームで遊んでいると、インターホンが鳴りました。普段ならモニターを通じて応対するのですが、その時は少し人恋しさがあったのでしょう。ほろ酔い気分も手伝い、「はいはいはい」と言いながら、玄関ドアを開けたのです。
町内会長と名乗る老人
玄関にいたのは、白髪と白髭が目立つ老人でした。手には紙とペンを持ち、「(指さしながら)あっちに住んでる、町内会長の○○(記憶に残らない覚えられない苗字)と申します。」と丁寧に頭を下げてきたので、こちらも畏まって挨拶をしました。
「実は近々断水がありまして、そのお知らせをしに来たのです。本当は■■号室(私の部屋)の方は町内会に入っていないので、(手に持っている)この案内の紙をポストに投函できないのだけど、さすがに困るかな?と思いまして、お知らせに来たんです。」
というような内容のお話をされ、「ああ、そうなんですね。わざわざありがとうございます。」と答えました。
「断水終わると、少し白い水が出るけどいったん出しちゃえば問題ないから、驚かないでね!」なんて気さくな感じで話していたことを覚えています。
町内会の話
町内会長と名乗る老人は少し気の毒そうな表情を浮かべ、「多分なんだけど、町内会があるのをご存知ないんですよね。ごめんなさいね、分かりにくくて。」とひたすら低姿勢に振舞います。そうなると対応する私も低姿勢になり、自然と町内会の説明を聞くことになりました。
町内会長と名乗る老人に説明されたことを要約すると、
- 町内会費は月500円で、1月に1年分(6000円)を徴収
- 町内会の会合に出る必要はない
- 今払ってくれれば、一旦領収書を取って戻ってくる
とのことでした。あれ?町内会費はアパートの管理費に入っていたのではなかったか?という思いが頭によぎりましたが、私の思い違いかも知れず、とてもフレンドリーで丁寧な目の前の老人を見て、嘘を言っているように思えず「これは、うっかりしていたな」と思ったのでした。
お金を取りに部屋に戻る
私は「分かりました、ちょっとお金取ってきますね。」と伝え、玄関から財布のある部屋に戻りました。その間、町内会長と名乗る老人は「良かったです。町内会に入っていないのは、あなたとこの下の階の△△号室の方だけだったので。」みたいなことを言い、心底ほっとしたような声で玄関から話しかけてきました。
私は財布の中に6000円があることを確認し、待たせてはいけないと思い、すぐさま持っていこうと思ったのですが、そこで「断水の話」になんとなく引っかかりを覚え、一呼吸を置くことにしました。
引っかかりを覚えたこと
「断水の話」に対する引っかかり。それは、これまで断水の際にはアパートの管理会社からお知らせが入っていたことです。急に町内会の管轄になることはあるのだろうか?と疑問に思いました。
私が、そのように考えていたところ、町内会長を名乗る老人は「年末年始は出かけてました?何回か来たんだけど、タイミング悪かったみたいだね。ごめんね。」と玄関の方から優しく語り掛けてきました。この時、引っかかりが疑惑に変わりました。
私は年始、電気を付けずに布団の中で生活をしていましたが、その間の来訪者はありませんでした。まあ、私が昼寝をしていたのかもしれないし、インターホン鳴らさずに玄関ドア窓から光が漏れていないことを確認したということかな?とも思ったのですが、用心するに越したことはないと思い、財布から紙幣を抜いて持っていくことにしました。
お金がないことを申し出ると…
「すいません、お金が今なくて…」と紙幣を抜いた財布を持って伝え、「今からお金を引き出して家まで持っていくので。」と申し出ました。
すると町内会長と名乗る老人は、恐縮した様子で「突然で悪かったですね…。家に来てもらうのは悪いから、また少し日を置いてから来ますね。」と言い、「年始でお休みのところ本当にごめんなさいね。」とひたすら低姿勢で謝るので、「あれ?本物だったかな?悪いことをしてしまったかも…」と罪悪感を感じました。
老人は帰り際に「あ、ペットボトルのラベルを外してから捨ててる?この間ごみ収集所でラベル外していない人がいて問題になっちゃってね…。もしかして、ここのアパートの人なんじゃないかって。」と問いかけてきました。
私はラベルを外してから捨てている旨を伝えると、「そうか、こんなこと聞いちゃってごめんね!気を悪くしないでね!」と言いながら微笑み、去っていきました。
認識の相違?
最後の言葉に違和感を感じました。私のアパートのごみ収集所は大家さんの家と大家さんが所有するアパート2棟の住人のみの利用のため、老人が指さした「あっち」とは関係のないはずなのです。
まあ、態度からしてお人よしの任され町内会長なんだろうから、ちゃんと把握していないのかもしれない。と楽観的に考え、怠惰の続きに耽ることにしました。
背筋が凍る
しかし、先ほどの老人から感じた違和感が頭から離れず、怠惰に没頭できなくなってしまったので、町内会費の徴収についてネットで調べていると「町内会費詐欺」についてのページが見つかり、そこに載っていた手口が、自分が先ほど体験したものだったのです。
被害に遭った人の情報をみていくと、「半分でも大丈夫といわれ、払ってしまった例」や「1万円を払い、お釣りを取ってくると言って戻ってこなかった例」などが出てきました。
「もし、対応を誤っていたら…。」と思うと一気に酔いがさめ、背筋が凍る思いでした。
その後の対応
一通り調べたのち、町内会費詐欺に遭いそうになった旨を警察に通報をしました。また、管理会社にも連絡して町内会費について確認してみると。町内会費は管理費に含まれているため、玄関口で徴収することはないとのことでした。
「まさか、自分が詐欺師に遭遇することになるとは…。」という思いと共に、「彼が余計なことを口走っていなければ完全に信じ込んでいただろうな」という思いもありました。
詐欺師というものはまったく詐欺師とは思えない振る舞いで日常生活に溶け込んでくるのだなと妙に納得してしまいました。だからこそ、騙される人が後を絶たないのだと。
まとめ
普段玄関で応対しないのにうっかり出てしまったことが危険なものだったとは…。改めて振り返ってみると、本当に怖いことをしたなと思っています。
現在は、高セキュリティを謳うアパートに住んでおり、しつこい人や変な人が来訪した場合にはボタン一つで警備会社を呼べるので、少しは安心です(その分管理費が高いのだけど…)。
先日、明らかに挙動が怪しい人がインターホンを押したので(押すなり、カメラに映らないところに隠れようとしていた。丸見えだけど。)、この時のことを思い出した次第です。一人暮らしの時に比べれば、変な人が来る頻度は少なくなりましたが。
皆さんもお気を付けください。