この闘いはいつから始まったのだろうか。「彼は一方向にしか進まない」という最初の読みは当たっていたのだ。しかし、日々進化し続ける彼が多方向へと転がる技を編み出してからというもの、毎日違った戦略で攻めてくるようになった。私は為す術もなく、時にベビーサークルへと本拠を遷す。
これは、父と子の『敷布団の取り合い』という名の闘いの記録である。あまりに静かに行われているため、きっと妻は気づいていない。
小さな闘い
夜8時。息子を寝かしつけるところから闘いは始まっている。卒乳して以来、添い寝による寝かしつけが可能になっているため、寝かしつけ自体は苦ではない(それどころか、先に私が眠ってしまい、息子に叩き起こされることがある)。
一番苦慮するのは、息子を彼用のベビー布団の上で熟睡させることである。眠りが浅いと器用に寝返りを打ち、私の就寝前に布団を占拠するのだ。
布団の長辺と水平に体を横たえて寝ていてくれるなら、私は余った横のスペースを使って寝ることができるのだが、決まって息子は布団の短辺と水平に体を横たえ、布団の真ん中に鎮座ましますのである。
こうなってしまっては、私は息子の布団で寝るか、リビングのベビーサークルで寝るしかなくなってしまう。基本は前者だが、夜襲の予感が漂うときはおとなしくベビーサークルに退避する。
ポジショニング
なお、我が家の布団の配置は以下のとおりである。
寝室の奥から順に息子、私、妻の布団が並べられている。私と妻の布団は同一のもの(テンピュールのfutonと枕)を使用しており、息子はベビー布団(farska)を利用している。
本来であれば、それぞれ自分の布団の上に眠るべきである。しかし、そのとおりになることは稀である。
ベビー布団で寝かしつけても…
寝かしつけの際に、運よく息子が熟睡し、自分の布団で寝続けてくれたとしよう。その夜は平穏が訪れるのか?否!それで終わりではないのだ。
この世はそこまで甘くできてはいない。
息子は必ず夜動き出すのだ、まるで起きているように。そしてそれを止めることはできない。
昨夜の闘い
では、息子がどんな動きを見せるのか、昨夜の戦いをダイジェストで説明してみよう。まず、最初の攻撃からして酷かった。私の首を枕にすべく突撃してきたのである。私は呼吸を妨げられ、たまらず枕を明け渡し、南下する方策を取った。
素直に枕を明け渡した場合、息子は枕を抱き枕にしたり、そのまま器用に頭を乗せたりして落ち着くことはよくある。しかし、昨夜の場合は枕を奪うだけでは飽き足らなかったようである。
第二派到来
数分後、息子は第二の攻撃に打って出る。
枕の上に体を横たえていた息子は、勢いをつけて器用に転がり、私の顔面峠を超えてき胸上に居を構えた。左手で私の鼻と口を塞ぐ形になったのは偶然だろうが、偶然にしてはうまくできすぎてやしないか?
私にできることはただひとつだ。負けを認めることしかできない。私はベビーベッドに身を預け、浅い眠りで何度も悪夢を見ることになったのである。
なお、この状態で息子を動かそうとしたり、迫りくる息子の動きを止めようとしたりすると、まるで防犯ブザーのように激しく泣き叫ぶため、息子を私が希望する位置に誘導することは難しい。
おわりに
ちなみに3人すべての布団をくっつけているのだが、不思議なことに妻の布団へは侵攻しないのである。妻の布団は息子にとってのサンクチュアリなのであろうか?
ちなみに、妻によると私の布団で誰も寝ていない時があるという。なぜなのかと問われるが、私は息子の布団に追いやられ、仕方なく息子の布団で寝ていただけである。なぜなのかはこちらが知りたいところだ。
そして今日も息子と闘わなければならぬのだろう。負け戦になることは分かっている。しかし、私には父としての矜持がある。安寧の惰眠を貪るために今日も私は布団に赴く。
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